好酸球性消化管疾患(Eosinophilic gastrointestnal disorders, EGIDs)は好酸球の消化管局所への異常な集積から好酸球性炎症が生じ、消化管組織が傷害され、機能不全を起こす疾患の総称である。部位により好酸球性食道炎(Eosinophilic esophagitis, EoE)、胃炎(Eosinophilic gastritis, EG)、胃腸炎 (Eosinophilic gastroenteritis, EGE)、大腸炎(Eosinophilic colitis, EC)に大別される 1)2)。EGE と EG、EC は明確に区別出来ない部分があることから EG、EC はしばしば EGE に包括される。
EGIDs は好酸球の消化管組織への高度な浸潤による機能不全に関連した症状をきたし、臨床症状と病理所見から定義される炎症性疾患であり、一次性の多くはアレルギー性疾患とされている。
※ HPF:High Power Field(400 倍強拡大視野)
内視鏡所見は EoE では特異的であり、食道粘膜に縦走溝(longitudinal furrows)、輪状の多発収縮輪(気管様食道, trachealization)、狭窄(strictures)、白斑(white plaques)などが認められることが多い(図 1a,b)。一方、EGE では浮腫、発赤、びらん、消化性潰瘍など非特異的とされている。また一見正常に見えることもある。病理検査では組織好酸球数が一つの基準となる(図 2a,b)。食道以外では生理的好酸球が存在し注意を要する。消化管好酸球数については一定の傾向はあるが 21)22)18,19、国際的に確立された基準値はない。一般に終末回腸から右側結腸では健常者でも 20/HPF 以上の高値をとることがある。また上皮内、胃腺や陰窩、筋層への好酸球浸潤、好酸球性膿瘍、シャルコー・ライデン結晶などが参考所見として有用である。また内視鏡所見が肉眼的に正常であっても、正確な診断には数箇所の生検が必要である。末梢血好酸球増多は EGE では認めることが多いが、EoE では認めない症例も多い。EoE では食道粘膜の eotaxin-3 mRNA 発現増強は感度の高い所見であるが研究室レベルの検査である 23)。臨床症状と病理所見の両方を加味して診断される。
食事療法
原因食物の除去による食事療法は根本的な治療となることがある。主として小児など食物摂取との関連が明らかな例で行われることが多い。問診と皮膚テスト(プリックテストやアトピーパッチテスト)や抗原特異的 IgE 抗体、食物除去・食物経口負荷試験が原因の検索のために行われ、症状と病理所見の両面から判断される 45)が一般に原因食物の同定は困難である。そのため、これらの検査を行って疑わしい食材を除去する原因食物の除去は理論的には効果が期待できるが、実際には奏功しない場合が多い 46)47)。このように原因食品同定が困難なため、4 種あるいは 6 種のアレルゲンとなりやすい食物の除去(empiric elimination diet [経験的食物除去])、あるいはアミノ酸成分栄養食だけを摂食させる成分栄養療法が行われる。経験的食物除去とは EoE の原因として多い牛乳、鶏卵、小麦、大豆 48)と即時型も含めた食物アレルギー全体でアレルゲンとなりやすい食物 49)から選ばれた 4(鶏卵、牛乳、小麦、豆類)50)51)あるいは 6 種(鶏卵、牛乳、小麦、大豆、ピーナッツ/種実類/木の実類、甲殻魚介類/貝類)50)51)の食物の除去である。この治療では、小児においても成人においても治療開始後数週間から数か月間で高率に自覚症状と食道粘膜への好酸球浸潤の改善がみられることが報告されている 45)52)。最近では牛乳、小麦の 2 種から段階的に除去の範囲を広げていく方法も提唱されている 53)。
成分栄養剤では、小児に行った場合でも成人に行った場合でも食道の線維性狭窄に起因する狭窄症状以外は 1-2 週間で軽快し、内視鏡検査でも食道狭窄以外の所見は軽快し、病理組織検査でも好酸球の浸潤が 1 か月程度で消失する 54)55)。ただし、成分栄養食で異常が消失しても食事を再開すると数日で異常所見が再発すると報告されており、治療を長期にわたって続ける必要がある。また EoE に対する成分栄養食の投薬は保険では認められていない。経験的食物除去、アミノ酸成分栄養食いずれも寛解導入後(少なくとも 1-2 か月程度の除去後)に 2-4 週毎に 1 食品群ずつ再導入する。再導入時に症状を誘発した食物に関しては原因と考え引き続き除去を行う 3)13)。
(幼児・成人好酸球性消化管疾患 診療ガイドライン 2020 年 09 月 14 日)より抜粋
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