前立腺は膀胱直下で尿道を取り囲むように位置し、精液の一部を作る男性固有のクルミ程度の大きさの臓器です。前立腺がんは2018年には男性のがんの罹患率第1位になりました。
前立腺がんの診断時に頻尿、排尿困難、残尿感、血尿等の症状を伴うのは全体の2-3割程度で、症状の出にくいがんといえます。検診で見つかるような早期がんでは殆どの場合はがんによる症状がありません。一方、がんによる症状が出る場合は進行した場合が多く、骨に転移したため骨の痛みで発見されるということもあります。
一般的には前立腺がんの進行は遅く、5年生存率はⅠ-Ⅱ期で90%前後、Ⅲ期で85%前後、転移を伴うⅣ期で55%前後といわれています。(がんの統計2014、がん研究振興財団)
前立腺がんの治療法には監視療法(特別な治療をせず慎重に経過観察をする)、手術療法、放射線療法、ホルモン療法、抗がん化学療法など様々な治療法があります。
一般的には前立腺がんの進行は緩徐で、比較的おとなしいがんであるといえますが、前立腺がんと診断された時の状況は患者様によって様々であり、PSAの値、がんの悪性度、病期、診断時の年齢、併存疾患の有無など個々の状況に応じて最適な治療法を選択します。
極めて早期の前立腺がんの場合には治療しなくても余命に影響しない場合があります。そういった前立腺がんに対する過剰治療が危惧されていることを背景に、特に高齢者の場合には監視療法 が重要な治療選択肢として位置づけられています。PSAが10ng/ml以下、前立腺生検の結果悪性度が低い(グリソンスコア6以下)がんが少量認められるだけで、すぐに治療を行わなくても余命に影響がないと判断される場合に選択されることがあります。PSA値の経過観察と適宜再生検を行い、治療が必要と判断されるまでは治療を行わずに様子をみる方法です。前立腺がんに対する治療を行わないため、がんが進行する危険性があります。監視療法を選択した場合には厳重な経過観察が必要です。
高齢化や生活習慣の欧米化に伴い前立腺癌は近年急速な増加傾向にありますが、10年相対生存率は84.4%と全癌腫中2番目に高く、適切な診断・治療を行うことにより治癒しやすい癌であると言えます(国立がん研究センター、2016.1)。前立腺癌の腫瘍マーカーであるPSA検査は泌尿器科のみならず、かかりつけ医、人間ドック、検診などでも受けることができる簡便な血液検査で、早期発見には必須の検査です。欧米の大規模な研究ではPSA検査の実施による死亡率の低下が報告されており、日本泌尿器科学会でも50歳以上の男性に対するPSA検査を推奨しています。しかし、日本でのPSA検査受診率は極めて低いのが現状であり、受診率の向上が望まれます。一方で、PSA検査は非常に鋭敏な腫瘍マーカーであるため、過剰に診断、治療してしまうという不利益が危惧されており、治療の必要な前立腺癌を的確に診断して適切な治療選択をする事が求められています。前立腺癌は自覚症状が出にくいため、PSA検査により早期発見することが重要です。50歳以上の男性は一度PSA検査を受けられ、異常を認めた際には泌尿器科専門医を受診されることをお勧めいたします。
(王子クリニック 泌尿器科/乳腺外科 を参照)
前立腺がんの予後(生死にかかわるか、その後の病状経過)は、がんの広がりと「分化度」で大きく異なります。がん組織を顕微鏡で診断(病理診断)する際に、同じがん細胞であっても元の形をより残しているタイプなのか、ほとんど残っていないタイプなのか、その程度を分類します。その程度を分化度といい、前者は高分化型、後者を低分化型、その中間を中分化型と表現されます。
前立腺がんの5年生存率(5年後に生存されている確率)は、下図のように、
・がんの広がりが限局しており、がん細胞が高分化型であれば、100%(10年生存率75.4%)
・がんが他臓器まで転移しており、がん細胞が低分化型であれば、22.8%(10年生存率6.5%)
(堺市立総合医療センターがんセンター 参照)
がん10年生存率53・3%「改善傾向変わらない」…新たにネット・サバイバルで算出
2023/03/16 00:00
国立がん研究センターは16日、2010年にがんと診断された患者約34万人の10年生存率が、53・3%だったと公表した。今回から、より実態に近い算出方法に変更した。このため、09年の診断患者が対象の前回調査とは比較できないが、同センターは「生存率が改善している傾向は変わらない」としている。全国のがん診療連携拠点病院などが参加する「院内がん登録」の大規模データを集計した。
部位別の10年生存率は、前立腺がんで84・3%、乳がん(女性)で83・1%、大腸がんで57・9%、胃がんで57・6%などとなった。また、14~15年にがんと診断された約94万人の5年生存率は、全体で66・2%だった。前回までは、がん以外の病気や事故などによる死亡の影響を補正した「相対生存率」で集計していた。実態より高めになりやすいとされる。このため今回は、純粋にがんのみが死因となる場合を推定した「純生存率(ネット・サバイバル)」で算出した。国際的にも広く使われる指標で、次回以降もこの方法を用いる予定だという。なお、同センターが参考として今回の10年生存率(全がん)を相対生存率で算出した値は60・5%で、前回より0・3ポイント上昇した。同センターの若尾文彦・がん対策研究所事業統括は「今、診断された患者は薬物治療などの進歩で、より高い生存率が期待できる。今回のデータはあくまで参考としてみてほしい」と話した。
(読売新聞オンライン 参照)
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