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プロ野球の通算215勝の名投手で、「マサカリ投法」などでも知られる村田兆治さん(72)が9月、羽田空港の保安検査を巡って激高し、検査員への暴行容疑で逮捕された(その後釈放)。怒りを抑えられずに大声を出したり、暴力を振るったりすれば、有名人に限らずその代償は大きい。ただでさえストレスが多い社会に新型コロナウイルス禍も加わる中、私たちは怒りにどう向き合えばいいのか。
村田さんは9月23日、羽田空港の保安検査場で女性検査員の肩を手で押すなどしたとして現行犯逮捕された。検査員にけがはなかった。村田さんは検査場の金属探知機に何度も引っかかって、腹を立てていたという。
公共の場や職場などで怒りにまかせて大声を出す人などを見かけると、「怒り」そのものを否定的に捉えがちだ。しかし、怒りは自分や家族、友人らに迫る有形無形の脅威に対抗する自然な反応でもある。臨床心理士で札幌学院大心理学部教授の菊池浩光さんは「不正に対する怒りのように、必要な怒りはある。問題なのは激高してしまうこと」と強調する。
ばかにされたり、軽く扱われたり、自尊心を傷つけられたときに怒りの感情が生じても、大抵は「ここで抑えないといけない」と考えてブレーキがかかり、怒りの暴発を防ぐ。ただ、体調が悪い、気持ちに余裕がない時は、ささいなことに怒りを感じやすく「気づいたら激高していた」という状況になりやすいという。
菊池さんは「激高するかどうかは、一呼吸を置けるかどうかが分かれ道になる」と指摘。一呼吸を置く方法として深呼吸や「数を数える」などの方法=表=が有効だという。普段から習慣にしておくことが大切で、例えば「自分を制御する言葉を唱える」のも効果的だ。普段から「ここで深呼吸」「大丈夫、大丈夫」と口に出してつぶやいておくと、怒りを感じた場面でも冷静でいられる可能性が高まる。
医療法人が運営する「デイケアほっとステーション」(札幌市中央区)は、メンタルクリニックの通院者らを対象に「怒りとどう付き合うか」と題した登録制プログラムを実施している。スタッフで臨床心理士の多田周平さんは「怒りを感じないようにするためのプログラムではなく、怒りとどう付き合えばいいかを、それぞれ実際の体験を振り返って考える」と狙いを語る。
週1回の講座では、参加者一人一人が、直前の1週間に怒りを感じた場面について発表する。公共交通機関の車内でおしゃべりをやめない高校生や、家族のちょっとしたひと言などに「腹が立った」などと話していき、他の参加者は基本的に助言も批判もせずに耳を傾ける。「怒りの感情を『扱う』には、落ち着きを取り戻すことが大切。ここに来れば自分の怒りを聞いてもらえるという体験が落ち着きにつながる」と説明する。
講座では、怒りの攻撃性などに関する知識を学ぶとともに、過去に自分の怒りの火種になったことや、反対に自分がほっとした場所や時間なども書き出して発表する。参加するうちに当初はとげのある言い方をしていた人が、自らの気持ちを説明した上で自分の希望を相手に伝えるようになるなどの変化も見られるという。
多田さんは「集団がいいか、一対一がいいかは人によるが、怒りと上手に付き合うには、自分の気持ちを誰かに聞いてもらう体験が重要」と話している。(井上雄一)
北海道新聞よりシェアしました https://www.hokkaido-np.co.jp/article/748391/
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