前立腺肥大に新治療法 保険適用、高リスクの人にも対応 水蒸気むらなく噴霧 性機能維持可能

2023年5月24日 05:00

 尿が出にくくなる、夜中に何度もトイレに起きる―。前立腺肥大は男性特有の疾患だ。昨年9月に新たな治療が保険適用され、これまで治療が困難だった出血しやすい循環器系の病気を抱えている人や、脚の弱った高齢者らリスクの高い人も受けられるようになった。従来の治療では失われた性機能も維持でき、おしっこの心配からできなかったゴルフを再開した高齢者もいる。

■趣味のゴルフ再開

 札幌市の80代の男性は、前立腺肥大に伴う排尿障害や夜間頻尿に悩まされてきた。薬物治療で対処してきたものの、飲酒すると、尿道の粘膜がむくんで、おしっこが出なくなる尿閉を起こし、病院に駆け込むこともあった。新たな治療を受けると、症状が劇的に改善。コースにトイレがないことから控えていたゴルフも再開できるようになった。

 前立腺はぼうこうの下にあり、精子の活動を活発にする臓器。球状で尿道を取り巻くようについており、ミカンのような構造になっている。年齢とともにミカンの実の部分に相当する尿道に面した内腺が肥大して尿道が圧迫され、尿が出づらくなる。

 一般に前立腺肥大は30代から始まり、60歳で6割、70歳で8割が生じているとされる。そのうち4分の1ほどの人が治療を必要とする。原因は肥満や高血圧、脂質異常症などの関係が指摘されている。

 軽症の場合は薬物治療が行われ、前立腺や尿道の筋肉を緩め、症状を改善させる。症状が進行したり、改善されなかった場合は外科的治療に移る。

 外科的治療はさまざまある。代表的なのは内視鏡を挿入し、電気メスで前立腺を摘出する経尿道的前立腺切除術(TUR―P)と、特殊なレーザーで前立腺を摘出する経尿道的前立腺レーザー核出術(HoLEP=ホーレップ)。そこに新たに加わったのが経尿道的水蒸気治療(WAVE=ウエーブ)だ。

■出血ほとんどなし

 HoLEPで国内最多の治療件数を誇る坂泌尿器科病院(札幌市西区)の坂丈敏院長によると、《1》TUR―Pは一般に出血が多く、前立腺をすべて切除することができない《2》HoLEPは前立腺をすべて取り出せ、出血量も少ないが、血液をさらさらにする薬を飲んでいる人や脳梗塞、長時間の麻酔ができないなど手術に高リスクを抱える人は対応が難しい《3》WAVEは出血がほとんどなく、高リスクの人も受けられる―という。

 WAVEは尿道から内視鏡を入れ、103度の水蒸気を前立腺組織に噴霧し、組織を壊死(えし)させて体に吸収させる。治療時間は10分ほど。既存の温熱療法と比べ、水蒸気を使うためむらのない治療が可能で、射精機能と尿道粘膜の温存も図れる。

 坂院長は「これまでの治療は精子がぼうこうに逆流して、射精は困難だったが、WAVEはぼうこうの出口を傷つけないため、性機能を維持することが可能になった」と語る。開脚できないような運動機能の落ちた高齢者の治療もできるという。

 ただ、HoLEPが100ミリリットルを超える大きな前立腺に対応でき、1週間程度の入院後、すぐに通常の生活を送れるのに対し、WAVEは30~70ミリリットルの前立腺が対象だ。術後も尿道にカテーテルを一定期間挿入し、尿の通り道を確保する必要があり、人により2週間、遅い場合は3カ月で排尿状態が改善される。

 坂院長は「前立腺の大きさによっても治療法は変わってくる。医師に相談してほしい」と話している。(編集委員 荻野貴生)


北海道新聞よりシェアしました https://www.hokkaido-np.co.jp/article/850275/

しのろ駅前医院

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