「介護難民」人手不足解消の切り札は 星槎道都大・大島康雄准教授に聞く

2023年11月21日 15:00(11月22日 12:59更新)

 人材不足や低賃金、仕事量が多い職場環境など、介護現場はさまざまな課題に直面している。道内の地方部では高齢者の人口が減っており、サービスの縮小や撤退を余儀なくされた事業所が出ている。必要なサービスが受けられない「介護難民」を生まないために、どうすればいいのか。星槎道都大の大島康雄准教授(社会福祉学)に、介護現場の現状や課題、改善策を聞いた。(聞き手・今関茉莉)

 おおしま・やすお 士別市出身。北星学園大大学院修了。2019年から星槎道都大准教授。札幌市内で居宅介護支援事業所と障害福祉サービスの相談支援事業所を運営する傍ら、21年から北海道介護支援専門員協会会長。社会福祉士、精神保健福祉士、主任ケアマネジャー。45歳。


――道内は多くの事業所が人材不足に悩まされています。

 地方の自治体では、介護の利用計画である「ケアプラン」を作成するケアマネジャー(介護支援専門員)の業務が逼迫(ひっぱく)しています。介護サービスを利用するには、ケアプランが必要です。困った自治体の担当者が、隣の自治体に相談したところ、そこの自治体も同じ状態でどうにもならない、というケースを耳にするようになりました。比較的ケアマネの人員に余裕がある中核都市の近くでない限り、隣の自治体に頼ることすら難しくなっています。地元で介護が完結せず、高齢者が地元を離れざるを得ない状況になっています。

■民間任せで制度にゆがみ

 ――介護業界にはさまざまな企業が参入しています。

 全国の高齢者人口は2042年まで増加すると言われています。道内ではすでにピークを過ぎ、減り始めている市町村もあります。介護業界は、民間企業が参入によって、競争原理が働くようになった一方で、企業は利益が見通せなければすぐに撤退してしまう懸念があります。事業所が撤退した地域では、介護保険料を払っているのに、十分な介護サービスを地元で受けられなくなってしまいます。例えば「月曜の午前10時にヘルパーさんに来てほしい」という依頼が通らず、曜日や時間を変更を強いられます。本来自己選択ができるはずなのに、事業者の都合に合わせざるを得ない。高齢者のインフラである介護保険事業を民間任せにしてきたゆがみが出てきています。

 ――都市部でも十分な介護サービスが受けられるとは限りません。

 札幌や旭川、帯広など人口が一定数いる都市部は、介護サービスを求めて転入する人が多く、高齢化率が上がっています。ただ、都市部ですら財源は枯渇しているのが現状です。福祉の質は下げたくないところですが、サービスの限界はもう近づいてきています。介護保険の財源を増やすために、私は一般企業などが介護の費用を負担する方法もあると思います。介護離職は全国で年間10万人と言われています。介護離職は、介護業界の人手不足による副産物です。離職によって企業の生産性も下がるのですから、企業が介護費用を出すことは、結果として労働者を守ることにつながります。

 ――人材不足解消に向け、地方の自治体ができることはあるのでしょうか。

 後志管内黒松内町では、介護福祉士を目指す学生に対し、将来町内で働くことを条件に、資格習得のための養成学校に在学する期間、月額5万円を補助しています。ほかにも介護の資格習得のための費用を負担する自治体は増えています。

 ――介護職員の高齢化も問題になっています。

 介護職員の年齢層を見ると、40、50代が多く、他の仕事を辞めてから介護業界へ入ってくる人がほとんどです。大学や専門学校を卒業して介護福祉士になる人は本当に少ない。その理由としてはやはり介護や福祉の仕事に対し、魅力を感じたり、憧れを持つ人が少ないことがあるのでしょう。介護職員の給料はそこまで悪くないはずですが、「仕事内容の割に賃金が低い」と思われがちです。例えば美容師やアパレル店員といった仕事は決して給料が高くはないのですが、そのきらびやかなイメージに憧れて志望する人はいます。まずは介護のイメージを変える必要があります。ただ、法人や企業の努力だけでは難しいでしょう。教育の中に取り入れていくなど行政単位で考えなくてはなりません。

■人材不足、負のスパイラル

 ――せっかく介護業界に入っても辞めてしまい、その後、補充ができていないのが現状です。

 多くの事業者では慢性的に人材不足の状態です。経験者の場合は事業者側から即戦力として見られ、負担が大きくなります。他にも休みが取りにくい、スキルアップのための研修時間が取れない、人間関係が悪化するなど問題が次々と起き、耐えられなくてまた離職者が出る、という負のスパイラルに陥っています。介護職員の処遇改善も大事ですが、なぜ離職するかを考えると、職場の環境は非常に大きいでしょう。職員同士が人間関係を築けるように、事業者は職場に人的な余裕を持たせなければいけません。

 ――政府は来年2月から介護職員の賃金を月6千円引き上げる方針です。介護職の処遇改善につながるでしょうか。

 介護職員の給与を上げる方法の一つに、介護処遇改善加算があります。これは、書類の手続きが多い上、事務経費は加算されません。また、この加算分は利用者にも一部負担してもらうことになります。「うちは処遇改善加算を取るから、利用料は他のところよりも50円高いですよ」という事業者と、「うちは面倒だから、処遇改善加算していなくて少し安いよ」という事業所があったとき、同じサービスなら利用者は少しでも安いところを選ぶでしょう。結局、事業者にとって大きな負担になってしまっています。事務手続きの複雑さをどうにかしなければ、特に小さな事業者には難しいでしょう。抜本的に基本報酬を上げる方が効果を見込めるのではないでしょうか。


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故郷の特養 閉鎖の危機 高齢者「どこに行けば」<「介護難民」時代>上

2023年11月16日 23:00(11月21日 18:28更新)

 地元で最期を迎えられるはずだった。

 留萌管内遠別町出身の鍋島奉子(ともこ)さん(96)は今年2月、町内唯一の特別養護老人ホーム「友愛苑」を出て、約200キロ離れた札幌の特養へ移った。

 約140年続く町内の玄明寺で生まれ育った。若いころ町内で小学校教諭を務めた後、亡き夫とともに寺を守ってきた。隣の同管内初山別村にある認知症グループホームで約10年過ごした後、高齢のため昨年2月、友愛苑に移ってきたばかりだった。

 故郷の特養を出たのは、職員が相次いで辞め、入っていたユニット型個室(定員20人)が3月に休止し、事実上閉鎖されたからだ。

 「職員が優しく、いい施設だったのに、人手不足で出ることになるとは。可能なら遠別にいてほしかった」。長女の量子さん(71)は、母との思い出が詰まった自宅の寺で語った。

 札幌の施設までは車で片道4時間超。冬は6時間かかることもある。時間をかけて行っても、新型コロナウイルスの感染対策で面会できるのは15分だけ。「寺の仕事もあるので頻繁には行けない」と肩を落とす。

 個室閉鎖から5カ月たった今年8月、友愛苑を運営する社会福祉法人「湯らん福祉会」(旭川市)は町に対し、友愛苑の全事業から撤退する考えを伝えた。

 残っていた友愛苑の特養の多床室(定員50人)に加え、日中に食事や入浴をするデイサービス、短期間宿泊するショートステイといった在宅の高齢者向け事業からも手を引く。

 湯らん福祉会の橋尻寿幸法人本部長は、人材確保が難しいことに加えて「将来は人口減少でニーズも減り、今後さらに経営が厳しくなるため」と説明する。

 町の75歳以上人口は2015年をピークに減り続け、10月末で566人。友愛苑の入居待機者は現在19人と、この5年間で8人減った。同法人は、撤退は「近い将来」とし、具体的な時期は明らかにしていない。

■全国6割赤字

 特養の運営は厳しさを増している。全国老人福祉施設協議会(老施協)が10月に公表した調査によると、全国の特養の62%が22年度の収支で赤字だった。前年度の43%から大幅に増えており、老施協は物価高や人件費高騰の影響とみる。

 町内の介護事業所はほかに訪問介護が1カ所あるだけ。「終(つい)のすみか」の閉鎖危機に、町民の間に不安が広がっている。母が友愛苑の特養に入居する町内の60代女性は「母はこの先一体どうなるのか。私が年老いたらどこに行けばいいのか。町が責任を持って対応してほしい」と訴える。

 町にとっても撤退は寝耳に水だった。町福祉課の小林大輔課長は「運営への補助を求められたことはなく、順調だと思っていた」と話す。

 友愛苑はもともと町営施設だったが、町は07年に運営費などの負担軽減を目的に同法人に指定管理を委託し、10年に施設を無償譲渡した。町は9月の町議会で「存続に向け早期に方向性を見いだしたい」と報告したが、運営を引き継ぐ事業者は見つかっていない。

 介護施設を民間に任せるのはもう難しい―。そう考える自治体も出てきた。

 人口約1500人の宗谷管内中頓別町は来春から、特別養護老人ホームと養護老人ホームの「長寿園」を町営にする方針だ。現在運営する地元の社会福祉法人「南宗谷福祉会」が6月、物価高騰などで経営が厳しく、運営から撤退したいと町に伝えていた。同町保健福祉課の相馬正志担当課長は「町外の法人に運営を任せ、再び撤退となれば高齢者の行き場がなくなる」と語った。

 心配なのは、町の財政的な負担だ。町によると同法人への特養に関する運営補助金はすでに年間約4千万円に上るが、町営化で負担が増えるか減るかはまだ見通せていない。

■施設売却1円

 「1円」「1万円」―。介護事業所の合併・買収(M&A)仲介会社のサイトには、経営に行き詰まった高齢者施設がただ同然の値段で並ぶ。実際には借金を引き継ぐため価格以上の負担はあるが、買収・売却は業界内で珍しくない。

 ただ、買い手の目は厳しい。道内外で高齢者施設を展開する企業幹部のもとには、仲介会社から月数件の案件が届くが、道内で検討するのは札幌や苫小牧などの主要都市の施設だ。幹部は「まちの人口規模は重要な指標。小さな自治体で検討するのは、近くに自社施設があって管理しやすい施設だけだ」と明かす。

 道央で特養などを運営する社会福祉法人の男性役員は、施設の売却・譲渡を模索している。「累積赤字が膨らみ、自力の経営再建は厳しい」と打ち明ける。

 人手不足で施設の一部を休止し、赤字がかさんだ。昨年度に人材を確保して約30人の待機者に連絡したが、入居したのは1割程度。多くはすでに亡くなったり、転居したりしていた。

 男性役員は険しい表情で語る。「高齢者が減り、働き手も少ない。このままでは地方に施設が残らなくなるのではないか」(津田祐慈)

 人手不足、物価高騰、地方の高齢者減少―。来年4月の介護報酬改定が迫る中、さまざまな課題に直面する介護現場の今を見つめる。(3回連載します)

<ことば>特別養護老人ホーム 介護保険サービスの公的施設で、地方自治体や社会福祉法人が設置、運営する。民間施設に比べ入居費用が安い。原則要介護3以上の人が入居でき、要介護1、2でも認知症などの場合は入れる可能性がある。食事や入浴などの日常の介護のほか、機能訓練やみとりに対応した施設もある。道内での要介護3以上の待機者は2022年4月時点で9245人。


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社協の訪問介護撤退相次ぐ 赤字重く苦渋の決断<「介護難民」時代>中

2023年11月20日 18:00(11月21日 18:25更新)

「ずっと、この家に住んでいたい」

 11月初め、後志管内泊村の中心部にある一戸建て。1人で暮らす斎藤トキ子さん(95)は、ホームヘルパーが掃除機をかけるそばで、つぶやいた。

子どもはおらず、10年以上前に夫と死別した。要介護1だが、視力は目の前がかろうじて見える程度で「家の中を歩くのも大変」。週4回1時間半ずつ、掃除や調理など家事の支援をしてくれる訪問介護が頼みの綱だ。

 周囲から施設に入ることを勧められたが、夫との思い出が残る家に住み続けたいと断った。ヘルパーが訪問する日は、亡き夫や札幌で暮らす弟の話に花が咲く。「普段は寂しいので話ができてうれしい」

 そんな暮らしも、薄氷の上に成り立っている。

 村では昨年、事業を担ってきた泊村社会福祉協議会(村社協)が訪問介護から撤退した。利用者は独居が多く、サービスがなければ村に住み続けられない。

 危機感を抱いた村は、約10キロ離れた同管内岩内町の合同会社「みらいケア・サポート」に事業を引き継ぐよう頼み込んだ。同社は現在、村内6人の訪問介護を担う。

 事業所のある岩内町から泊村まで車で15~20分だが、吹雪の日は40分かかることもある。斎藤さんの家事支援を担当するヘルパーの藤本天愛伽(あみか)さん(24)は「ホワイトアウトで運転が怖いときもある」と話す。

 村社協が訪問介護から撤退した背景にあるのは、人口減少だ。

 泊村の人口は今年1月時点で1491人と、2018年から1割減った。75歳以上の割合は、18年と比べ1ポイント増え、24・4%。その一方、75歳以上は391人から27人減り、364人となった。中でも家事などを行う「生活援助」は原則1人暮らしの高齢者が対象のため、通所のデイサービスと比べると利用者は限られる。

 さらにネックとなったのが自宅に訪問するまでの移動時間だ。現在の介護報酬の仕組みでは、移動時間や距離が加味されない。軽自動車の燃料費や人件費で、訪問介護部門の赤字が1千万円を超えた。村社協の高橋幸大事務局長は「撤退は苦渋の決断だった」。

 北海道新聞が各社協に取材したところ、18年からの5年間で、泊村を含め道内6市町村の社協が訪問介護事業を廃止した。

 訪問介護事業所の多くは民間事業者が運営し、社協が運営するのは道内全体の1割。社会福祉法に基づき全市町村にある社協は、特に地方で公益性の高い事業を行う。社協が撤退すると、採算面で民間が受けたがらない利用者にサービスが行き届かなくなる恐れがある。

 十勝管内清水町の社協は17年に事業を休止し、19年に廃止した。町内のNPO法人が休止後の17年に事業を引き継いだが、赤字に陥り、今年2月に撤退。現在は地元の民間業者が運営する。

 清水町のNPO法人幹部は「利用者宅に行くのに時間がかかり、効率よく回れなかった」と漏らす。一方、札幌のある訪問介護事業者は「同じ区内で1人が1日に5、6軒回ることもできる。それで収支がようやくトントンになる」と明かす。

 政府は24年度の介護報酬改定に向け、利用者宅までの距離が遠い地方の事業者を対象に、新たに加算報酬を設けることを検討しているが、十分な額になるかは不透明だ。

 施設から在宅へ―。超高齢社会を迎え、国は高齢者が住み慣れた地域で暮らせるよう、在宅介護を推進する。だが狙いとは逆に、地域の暮らしを支えるセーフティーネットは、土台から揺らいでいる。

 泊村の訪問介護事業を引き継いだ、みらいケア・サポート代表社員の大佐賀照美さん(62)は問いかける。「地方の人も都会の人と等しく介護保険料を納めてきたはず。それなのに、地域でサービスが受けられないなんておかしいじゃないですか」(高野渡、津田祐慈)


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夜勤月7回でも… 人材確保、低賃金が足かせ<「介護難民」時代>下

2023年11月21日 18:14(11月22日 12:38更新)

 胆振管内の介護施設で正職員として働く50代の女性は、10月の給与明細を見て苦笑いした。

 夜勤に7回入っても、手取りは17万円に届かない。「これだけしかもらえないんです」

 慢性的な人手不足で月7、8回の夜勤はざら。汚物が漏れるおむつ交換に、深夜のトイレ介助…。同僚が休憩でいない時、4部屋のナースコールが同時に鳴り、1人で対応したこともある。仮眠は1時間しか取れない。

 新型コロナウイルス禍で職員の家族が感染し自宅待機が続出した際は最大月9回、夜勤に入った。「夜眠れなくなり、力仕事で腰痛も悪化している。職業病です」

 人手不足が常態化する介護現場に疑問を感じ、職場を去る人もいる。

 半年前まで石狩管内の介護施設で働いていた女性(45)は「昼の1時間休憩で、現場のフロアに介護士がいない時間帯があった」と話す。

 職員の間では「休憩回し」と呼ばれ、離れた場所でリハビリを行う理学療法士らに見守りを頼んでいた。人が足りず、施設側が、ぎりぎりの人数でシフトを組んだためだった。「転倒などいつ起きてもおかしくない状況だった」と振り返る。

 公益財団法人介護労働安定センターが2022年度に道内の介護労働者666人に行った調査で、労働条件の悩み(複数回答)は「人手が足りない」が56・8%で最も多かった。

 事業者側にとっても、人材確保は死活問題だ。

 オホーツク管内西興部村で介護事業を行う村社会福祉協議会(村社協)は、現場で働く職員の不足に悩む。人材確保のめどが立つ来春まで、事務局長の石川達彦さん(52)が自らハンドルを握り、訪問介護の通院送迎を行う。

 村社協のデイサービスも綱渡りの状況が続く。介護士の正職員1人、パート2人で週2回、10人ずつ利用者を受け入れているが、入浴介助は手が足りず「いつもバタバタ」。職員が1人でも休むと、石川さんが現場の手伝いに入る。

 10月末、デイサービスで勤務する唯一の看護師が辞めた。看護師がいなくても運営はできるが、介護報酬が減額される。四方を山に囲まれた村は、隣接する同管内興部町とは約20キロ、天北峠を挟んだ名寄市は約50キロ離れており、村外から人を集めるのは「限界がある」と石川さんは言う。

 北海道労働局によると、介護職の9月の有効求人倍率は3・39倍で、全職種の1・01倍をはるかに上回る。特に現役世代が少ない地方では、少ないパイを取り合っているのが現実だ。

 介護職に人が集まらない理由の一つに、仕事量の割に賃金が低いことがある。

 賃金を巡っては、サービスの利用者も負担して介護報酬に上乗せする処遇改善加算を行い、賃金に反映させる仕組みもあるが、他の職種と比べるとまだ低い。

 厚生労働省の賃金構造基本統計調査(22年)で、施設で勤務する道内の介護職員の賃金は22万7千円で、全職種平均の26万7千円を4万円下回る。夜勤のある看護師の30万9千円と比べて約8万円も低い。

 介護報酬は3年に1回しか改定されず、待遇向上の動きは鈍い。政府は来年4月の報酬改定で処遇改善を図る考え。それまでのつなぎとして、来年2月から介護職員1人当たり月6千円を事業者に補助金として支給する予定だが、現場からは額が低いと不満の声が上がる。

 星槎道都大の大島康雄准教授(社会福祉学)は「慢性的な人員不足が続くと、地方で施設の閉鎖やサービスの停止が増えるだろう。政府は介護報酬について、加算だけでなく、根本的な制度見直しをすべき時期が来ている」と指摘する。

 開始から23年。地方の暮らしを支えてきた介護保険制度は、曲がり角を迎えている。(高野渡、今関茉莉)=おわり=

<ことば>介護報酬 介護保険サービスを提供した事業者に対価として支払われる報酬。国が公定価格として決めており、原則3年に1度改定する。次回は2024年度。利用者の負担は所得に応じて1~3割で、残りを国と自治体の公費、40歳以上の人が支払う保険料で賄う。報酬を引き上げた場合、サービスの充実や質の向上、職員の待遇改善が期待できる一方、利用者の自己負担、税金や保険料といった国民負担が増える。

 道内の介護現場の実態を伝える「『介護難民』時代」は今後、随時掲載します。連載へのご意見やご感想をお寄せください。電子メールhoudou@hokkaido-np.co.jpと、ファクス011・210・5592でも受け付けます。


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(2023/12/6の北海道新聞朝刊より)

外国人材来てほしいのに… 道内の介護現場が不人気なワケ

2023年12月1日 13:09(12月3日 13:31更新)


 介護の現場で人手不足が深刻化する中、介護施設側が頼みにする外国人材の受け入れが、道内で低迷している。外国人スタッフがいる道内の介護施設は全体の5%台と全国平均の半分程度にとどまる。東京などの大都市に比べ賃金が低く、特に道内の町村では外国人労働者が生活に不便さを感じたり、孤独感を強めたりして都市部へ移る例が後を絶たない。人口減少で加速する介護サービス縮小を、外国人材で補うことも難しい―。地方の現場はそんな苦境に立たされている。

 インドネシア出身の介護福祉士ニタ・サリさん(27)は石狩市浜益区の特別養護老人ホームで働いていたが、今年8月に横浜市の施設に移った。「想像していた以上に田舎だったことに最初は驚いたが、職員の人たちはとても温かく支えてくれ、生活にはすぐ慣れた」。浜益を離れた最大の理由は、イスラム教徒の少なさだった。

 2019年に技能実習生として来日したニタ・サリさんには「結婚相手を見つけたい」という希望があった。同じイスラム教の男性との出会いの場を求めていたが、浜益ではなかなか見つからなかった。今年、介護福祉士の試験に合格し在留資格を得たため、首都圏に移ることを決めた。「横浜はイスラム教徒も多く、公共交通機関で気軽に外出できるのも魅力」と語る。

 ニタ・サリさんが勤務していた特別養護老人ホームなどでは、現在3人のインドネシア人が働く。運営する法人の岩崎恵子施設次長は「浜益ではなかなか介護スタッフを集められない。外国人材の存在なしにはもはや運営できない」。

 公益財団法人介護労働安定センター(東京)の調査(22年10月現在)によると、技能実習生や特定技能の在留資格を持つ外国人材を受け入れている道内の施設は全体の5・7%で、全国平均の9・5%を大きく下回り、都道府県別で9番目の低さだった。

 介護分野の外国人材受け入れを仲介する国内最大手の監理団体「医療介護ネットワーク協同組合」(東京)が今年受け入れた外国人材約400人のうち、道内勤務に応募したのは16人で沖縄に次いで少なかった。

 北海道が不人気な背景には、待遇の差もある。同組合によると、人手不足を解消したい関東や関西の介護施設の中には、技能実習生に、事実上の給与として月額23万円を出す施設もあるが、道内では17~19万円で「実習生にとって月に数万円の差は大きい」(同組合)という。

 胆振管内の特別養護老人ホームは3年前に特定技能のベトナム人1人を受け入れたが、交流サイト(SNS)で首都圏の賃金の高さを知り、1年も立たずに道外に移った。この施設の担当者は訴える。「首都圏などの賃金の高さにはかなわない。せめて3年くらいはいてほしかった」

 一方、技能実習生の受け入れに関わる負担が大きく、経営が厳しい道内の施設が受け入れを諦めている例も少なくない。

 外国人採用セミナーを実施している職業訓練法人「キャリアバンク職業訓練協会」(札幌)によると、入国後に受ける必要がある講習の費用に1人あたり最大20万円、仲介した監理団体などに支払う監理料も月額最大5万円が必要だ。雇用契約書の写しや支援計画書など申請書類も多い。

 檜山管内のグループホームの代表は「ただでさえ人手不足で経営がぎりぎりな中、そうした負担はとても無理。大きな施設や法人以外には難しい」と嘆く。

 医療介護ネットワーク協同組合の増村章仁理事長は「地方でも受け入れ態勢が整っていれば外国人は来てくれるが、道内は外国人材に対する情報発信も乏しい」と改善の必要性を指摘している。(今関茉莉)

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(2023/12/17の北海道新聞朝刊より)

しのろ駅前医院

篠路駅西口にある内科のクリニックです。地域のかかりつけ医として高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、痛風、気管支喘息などを中心に胃カメラや大腸カメラも対応しています。健診、予防接種や訪問診療もご相談ください。