2024年2月18日 19:07(2月18日 20:18更新)
【西興部】オホーツク管内西興部村の障害者支援施設「清流の里」で、職員6人が入所者13人に虐待を繰り返していたことが発覚してから1年余り。同村出身で社会福祉法人「はるにれの里」(石狩)職員の中野喜恵さん(58)が昨年2月から施設に出向し、業務課長として立て直しを進めている。職員の意識だけではなく、入所者にも変化が見られるようになってきた。
中野さんは長年自閉症の人などの支援に携わっており、他施設の要請を受け、支援が難しい障害者への対応を助言してきた。
清流の里では、全裸のまま放置、食事に無理やり引っ張って連れて行くなど、職員6人による虐待38件が認定された。中野さんは昨年2月、障害者施設などで構成する北海道知的障がい福祉協会(札幌)から、施設再生を担う人材として推薦を受けて出向した。
虐待の背景には、慢性的な人手不足や職場の風通しの悪さがあったと中野さんは指摘する。コロナ禍で、家族など外部の目が行き届きにくい状況だったことや、研修がオンラインになり、職員の虐待に関する知識が不十分だったことも影響したと考えている。「職員は利用者と向き合うことをせず、職員側の都合を優先していた」(中野さん)。
再発防止に向けて、職員が担当していた洗濯を任せるパート従業員を雇用するなど、業務の効率化を進めた。本来行うべきだった朝礼や支援策を話し合うケース会議を開くようにし、職員同士が声を掛け合う態勢を整えた。地域住民や家族を招き、スコップ三味線の演奏会や月見会などを開き、地域との交流も進めた。
昨年5月に自閉症の男性が、施設を出て近くの集合住宅で1人暮らしを始めたことが、職員の意識が大きく変わる転機となった。
男性は音に敏感で、施設の集団生活になじめず、他の入所者にたたかれてパニックになることもあった。
中野さんが1人暮らしを提案すると、職員たちは「無理だ」と反対。中野さんが「男性は決められたルールを守れる」と説得した。
男性は、自宅を見回りで訪れる職員の支援を受けながら暮らす。こうした生活が本人には合ったといい、日中に通う就労支援事業所でも、落ち着いて仕事をするようになった。中野さんは「自閉症の人は長所や強みをたくさん持っている。支援のやりがいを職員に知ってもらうきっかけになった」と振り返る。
その他の入所者にも変化がでてきた。ある女性は、施設の玄関に飾られた自分の絵を来客にほめられたことで自信をつけ、笑顔を見せるようになった。菊川博幸施設長(64)は「利用者や職員の雰囲気が明るくなった。利用者への接し方など、中野さんの知識が職員に共有され、支援の専門性が上がった」と話す。
道によると、障害者施設の職員らによる虐待は2022年度に道内で40件あったが、発覚した虐待事案は氷山の一角とも言われる。道が昨年6月にまとめた障害者施設における虐待の実態調査で、施設職員2417人のうち1割に当たる256人が「虐待をしたことがある」と回答。虐待のきっかけは「人員不足や配置先による多忙さ」が51・2%、「介護の技術・知識不足」が30・9%に上った。 中野さんは「利用者のことを第一に考えれば、忙しさは言い訳にならない」と強調する。清流の里での任期は3月末までの予定だが「利用者を中心に考え、利用者が自分の意見を言える環境を引き継いでほしい」と考えている。(高野渡)
<ことば>清流の里の虐待事件 社会福祉法人「にしおこっぺ福祉会」が運営する障害者支援施設「清流の里」で、職員6人が入所者13人に対し、お盆にこぼしたご飯を食べさせたり、体を無理やり引っ張ったりしていた虐待が2022年12月に発覚した。村は身体的、心理的虐待計38件を認定。職員6人は同年12月26日付で懲戒解雇された。6人は暴行容疑で書類送検され、うち5人が略式起訴された。
北海道新聞よりシェアしました https://www.hokkaido-np.co.jp/article/976742/
0コメント