2024年5月27日 14:45(5月27日 19:34更新)
80歳までに3人に1人がかかるとされる「帯状疱疹(ほうしん)」を予防するため、ワクチンの接種費用を助成する自治体が道内で増えてきた。ワクチンは種類によって4万円以上と高額だが、発症や重症化を避けるのに有効で、3年前まで宗谷管内幌延町のみだった助成制度の導入自治体は67市町村まで拡大した。ただ道内主要都市はいずれも導入しておらず、居住地によって疾患から身を守るための費用負担に差が生じている。
■50歳以上の罹患率高く
帯状疱疹は、子どもの頃に水ぼうそうになった人の体内に長期間潜伏していたウイルスが、加齢や免疫低下に伴い再活性化することで発症する。一般的に50歳以上の罹患(りかん)率が高いとされる。
罹患すると、腹や背中、頭などに赤く腫れ上がった発疹が広がる。多くは3週間ほどで治るが、発疹が引いた後も神経痛に悩まされる人が少なくない。痛みが2~3年続く人もいる。
釧路市の主婦野沢美幸さん(52)は2年前、おでこや頭皮に発疹と水疱(すいほう)ができ「皮膚の奥がズキズキする痛みが続き、今も完治していない」という。
■接種は全額自己負担
ワクチンで発症や重症化を防げるが、費用は高額だ。ウイルスの毒性を薄めてつくる生ワクチン(1回接種、約8千円)と、ウイルスのタンパク質からつくる組み換えタンパクワクチン(2回接種、計約4万円)の2種類があるが、いずれも国が費用を負担する「定期接種」の対象外で、全額自己負担となる。
札幌市の白石スキンケアひふ科クリニックには接種希望者が毎日来院している。山下利春院長は「症状がつらいという情報を周囲から聞き、費用を負担してでもワクチンを打ちに来る人が多い」と説明する。
帯状疱疹を発症する人は増加傾向にある。宮崎県皮膚科医会が県内で行った調査によると、発症率は1997~2020年までの23年間で約1.8倍に増加。14年以降に著しく増えており、同年始まった乳幼児の水ぼうそうワクチンの定期接種が影響している可能性がある。各都道府県も同様の傾向とみられる。
子育て世代は従来、水ぼうそうにかかった子どもと接触することで免疫が高まり、帯状疱疹を発症しにくかった。だが定期接種が始まって以降、水ぼうそうの子どもは激減。免疫が弱まった親の帯状疱疹の発症率が高まっているという。
罹患を懸念する住民らの要望や医師の助言を受け、接種費用の助成に乗り出す自治体は増えている。
英製薬大手グラクソ・スミスクラインによると、根室管内標津町や檜山管内今金町など道内67市町村が既に導入し、多くは50歳以上を対象に費用の半額を助成している。23年度から全額を補助している後志管内泊村では、初年度に想定の1・5倍となる150人が助成制度に申請した。
■道内主要10市は助成なし
小規模自治体で助成が広がる一方、札幌や旭川、函館など道内主要10市は導入していない。厚労省の審議会は帯状疱疹ワクチンの定期接種化に向けた議論を進めており、主要都市の多くは様子見を続けている。
札幌市中央区の無職女性(70)は「費用の高さが1番のネックで、接種するか迷う。半額でも助成してくれたら」と定期接種の対象となることを期待する。
しかし現行の定期接種は小児のはしかや高齢者の肺炎球菌感染症など、感染力が高く、命に関わる疾患を予防するワクチンが対象。帯状疱疹は致死率が低く、治療薬もあり、通常は人から人に感染しない。
このため厚生労働省の担当者は「帯状疱疹のような疾病も公費対象とするかどうか、費用対効果や有効性を検証しながら検討する」と慎重姿勢を示す。
宮崎県の調査では毎年約2%ずつ発症率が増えており、富山大の白木公康名誉教授(ウイルス学)は「全国的にも増加傾向が続くと予想される」と指摘。「罹患者が痛みを我慢し続けると、神経に痛みが伝わりやすくなり、神経痛が長引く」とし、ワクチン未接種の人らは重症化を避けるため早期に受診するよう呼び掛けている。
北海道新聞よりシェアしました https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1016895/
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