2024年7月24日 4:00
高齢化などで間質性肺疾患で亡くなる人が増えている。厚生労働省によると、2021年には全国で1万9220人が死亡している。初期にはほとんど症状がなく、医師の中でもあまり知られていない。診断で見落とされることも多く、実際の患者数はさらに多いとの推計もある。特徴的な自覚症状は、空せきと息切れ。「年のせい」などと放置していると、かぜなどに感染することで急速に悪化、死亡することもある。
「間質性肺疾患は肺の間質部分にできる病気の総称で、原因・症状もさまざま。抗菌薬も無効で、分かっていないことも多い。検査を行っても見落とされることもある」と話すのは、札幌医大名誉教授で、北広島病院(北広島市)呼吸器内科の高橋弘毅医師だ。
間質性肺疾患は、原因不明の特発性間質性肺炎、膠原(こうげん)病に伴う間質性肺疾患、カビなどのアレルギーで起きる過敏性肺炎、薬剤の副作用で起きる肺炎などを含む間質性肺疾患の総称。歌手の八代亜紀さんもこの病気が急速に悪化し、亡くなった。
間質にコラーゲン(線維)が付着し肺が徐々に硬くなる場合は肺線維症と呼ばれ、呼吸機能が低下すると、息切れを伴うようになる。間質性肺疾患と肺線維症は、一般には同じ病気と説明される。
50歳以降の中高年に多く、喫煙と密接に関係するものもあるが、無関係なものが多い。原因やリスク因子はさまざま。基礎疾患に膠原病がある、薬やサプリメントを長期に服用している、胸の放射線治療を受けたことで起こる。アレルギー反応で発症する人もおり、家屋や加湿器などで発生するカビ、羽毛布団、ダウンジャケット、鳥類のふん・羽などが原因となることがある。一部の抗がん剤を投与されることで発症することもある。
診断は聴診器、エックス線、CT、血清マーカー(KL-6、SP-D)などで判定する。高橋医師は「初期にはエックス線を撮っても肺がきれいで異常が発見されない。CTも過去の肺炎の痕として見落とされるケースもある。背中に聴診器を当てると『パチ、パチ、バリ、バリ』と言った特徴的な音がして、発見されることがある」と解説する。
間質性肺疾患の診断は呼吸器科の中で最も難しく、心不全、ぜんそく、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)と間違われることもある。
しつこいせきがある場合は鎮がい薬、炎症が主体となっている場合は、ステロイドや免疫抑制薬が処方される。線維化が進行する場合は根治させる治療はない。
特発性間質性肺炎の中で最も多い特発性肺線維症(IPF)には近年、抗線維化薬(ピレスパ、オフェブ)が適用薬として承認されている。肺が硬くなるスピードを抑える効果がある。オフェブは膠原病肺などで線維化が進行するケースにも適用される。ただ、炎症と線維化の見極めは難しく、薬の処方を間違えると症状が悪化することがある。
このほか、在宅酸素療法、呼吸リハビリテーション療法といった治療もある。
札医大では高橋医師も加わり、エックス線画像を人工知能(AI)に読み込ませ、線維化を伴う間質性肺疾患を、軽症でも高精度で診断できる支援プログラムソフト(BMAX)を産学協同で開発したばかり。かかりつけ医での見落とし防止など、エックス線読影補助ソフトとして活用が期待されている。
高橋医師は「発見には定期的なエックス線検査が大切。今年4月からは国の医療費補助制度の対象が拡大されたので、かかりつけ医に相談してほしい」と話す。
<ことば>間質 正常な肺は直径0.2ミリほどの小さな袋(肺胞)とそれをつなぐ気道(気管支)で構成されている。間質は、肺胞と肺胞を隔てる構造のことで、とても薄く、その中に毛細血管が張り巡らされている。肺胞と毛細血管は間質を通して酸素と二酸化炭素のやりとり(ガス交換)を行う。間質性肺炎・肺線維症は間質が厚くなり、ガス交換を妨げ、酸素欠乏を引き起こす。
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